(第28回)閩南語(びんなんご)と台湾語について

私は台湾語(ホーロー語(河洛語・福佬語))を勉強しています。中国語(普通語)は上手ではありませんが、長い期間中華圏ビジネスに携わってきたお陰で、日常生活やビジネス上では不便はしていません。でもせっかく台湾で起業しているのですから、現地言語で簡単な会話ぐらいできたらと思い立ち60歳+αの手習いです。

 (私が使っている”初めての”台湾語の教科書、”6日で話せる”閩南語との謳い文句です。)

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ところで台湾語とは、所謂、閩南語(びんなんご、東南アジアでは福建語Hokkienとも呼ばれます)の派生言語と言われるものです。つまり中国大陸福建省あたりの言葉の派生形なのです。17世紀から19世紀にかけて福建省泉州・漳州・厦門から台湾に渡ってきた漢民族が持ち込んだ言語です。

⇒第5回をご参照ください。

中国語(普通語)と台湾語(閩南語)とは全く別言語です。

例えば、中国語(普通語)の「你好(ニーハオ)」は、台湾語では「リーホー」と発音します。中国語で「おいしい」を意味する「好吃(ハオチー)」は、「好呷(ホージャー)」と単語自体が変わります。

やっかいなのは、中国語(普通語)が四声なのに対して、台湾語(閩南語)は七声である事です。更に鼻孔や歯で響かせたり、舌尖や舌根や喉での破裂音や濁音を出すなど、日本語では有り得ない音を出すので難しいのです。

とにかく音を覚えて丸暗記するしかないと思っていますが、レベル的には幼稚園生か小学生低学年程度でよいのです。「おいしい!」とか「いくら?」とか「お元気ですか?」の類でも十分だと思っています。

福建省を中心に話されている閩語は、出生地を福建省に持つ華人・華僑により台湾をはじめとして、シンガポール・マレーシア・タイ・フィリピンなど東南アジアの華僑・華人コミュニティーでも使われています。

閩語のルーツは、後漢末期~三国時代呉国(長江流域)の言葉だと言われています。3世紀後半に呉国は西晋に滅ぼされますが、現在の江蘇省浙江省一帯から漢民族福建省に移住し始めたことにより、福建閩越族の言語との融合を経て形成されました。

閩語は「十里不通音(十里離れただけで言葉が違う)」という言われるように、方言同士で意思疎通が図れないこともあり、「ある集落が山をひとつ越えただけの隣の集落と意思疎通が図れない」というケースもあります。

そのため、同じ閩南人(みんなんじん)である泉州人・漳州人・厦門人は夫々独立心旺盛な民族である一方で、泉州方言・漳州方言・廈門方言の3種に分類されます。異なる言語の影響で同一地域単位でのみ交流します。そのために、閩南人(みんなんじん)同志の部族間闘争もしばしば引き起します。これは台湾内の歴史でも大きな影響を与えることになります。

⇒第5回をご参考ください。


福建(省)の閩語は基本的に5つに分類できます。

①閩北語→建甌・松渓・政和・建陽・崇安など
②閩東語→福州・福清・古田・福安・蛮講など
③莆仙語→莆田・仙游などで使用。
閩南語→廈門・泉州・漳州・竜岩など
⑤閩中語→永安・三明・沙県など

 更に夫々の閩語が各地方言を持つわけですからその成り立ちは複雑極まりないのです。福建省以外でも閩語が話されている地域もあります。

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現在閩南語での主流は廈門方言で、閩南語の標準語的地位を占めていますが、台湾でも地域によってそれぞれ特色があります。台北泉州方言の要素が強く、台南は漳州方言の要素が強いとされます。


現在台湾では「國民中小学校九年一貫課程」(国民小中学校九年一貫カリキュラム)
の実施により、2 0 0 1年度から全台湾の小中学校において、 閩南語・客家語・原住民語などの所謂『郷土言語教育』が必修科目としてあるそうです。小中学校生徒はこれらの郷土言語から自由選択して履修をします。


このブログでも取り上げましたが、日本統治時代における同化政策の一貫として皇民化運動』の影響で日本語の公的使用と教育が優先されました。逆に台湾語や原住民語の使用が制限された悲しい歴史があります。戦後は国民党政権において北京方言に基づく中国語(普通語)教育が『国語』として行われてきたという歴史も経験しています。

⇒第22回をご参照ください。

現在、台湾の若い世代には台湾語を話せないひとも多いと聞きますが、この『郷土言語教育』は、台湾人としてのアイデンティティーを植え付ける教育政策で非常に良いことだと思います。